親の認知症が進むと、介護そのものより先に「お金の手続き」でつまずくことがあります。私の場合がそうでした。
※本記事は筆者の家族の体験をもとにしています。金融機関の対応や制度の運用は、機関・地域・時期・本人の状態によって異なります。個別の手続きについては、取引先の金融機関や専門家へ必ずご確認ください。
結論|親が元気なうちに「口座の数」と「暗証番号」を確認しておく
先に結論です。親が元気なうちに確認しておいてよかったと思うのは、次の2点でした。
- どの銀行にいくつ口座があるか
- その暗証番号を本人が把握しているか
加えて、お金まわりで抱えている問題がないかも、話せるうちに聞いておくべきだったと感じています。
どれも、認知症が進んでからでは確認が難しくなります。理由は次に書きます。
認知症が進むと、親の預金は動かせなくなることがある
「口座凍結」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは法律で定められた制度ではなく、金融機関が「本人の意思確認ができない」と判断した時点で、引き出し・振込・解約などの取引が止まるという実務上の扱いを指します。
本人の財産を守るための対応ですが、家族にとっては、介護費や医療費を本人の口座から出せなくなることを意味します。
なお全国銀行協会は2021年2月、認知判断能力が低下した預金者について、家族による医療・介護費用の代理出金を極めて限定的に認める考え方を示しています。ただし、これは無条件に引き出せるという意味ではなく、対応は金融機関ごとに異なります。実際にどう扱われるかは、取引先の金融機関にご確認ください。(2026年9月27日時点で確認)
私が実際につまずいたこと|どの暗証番号がどの銀行か分からない
両親が認知症と診断され、介護が必要になったあと、私が最初につまずいたのはここでした。
親は複数の銀行に口座を持っていました。そして、どの暗証番号がどの銀行のものなのか、本人も家族も分からなくなっていました。
私がやったことは、思い当たる番号を手当たり次第に入力して、一致するものを探すという方法です。
暗証番号を規定回数以上間違えるとキャッシュカードが使えなくなることは、分かったうえでやっていました。それでも口座のお金を引き出す必要があり、「ロックがかかるまで入力して、ダメなら窓口で手続きすればいい」という判断でした。仕事と介護の両立で時間がなく、まず自分でできることを試そうとしたのだと思います。
結果として、いくつかの口座にはロックがかかりました。
ただ、今振り返ると最初から窓口に相談していた方が、結果的にスムーズだったのではないかと思います。総当たりで試した時間と、そのあと結局ロック解除のために窓口へ行った手間を考えると、遠回りだったかもしれません。同じ状況の方には、心当たりの番号が思いつかない時点で窓口に相談することをおすすめします。
ロックがかかった口座をどうしたか
ロックがかかった口座は、残高で対応を分けました。
- 残高が少額(1,000円以下)の口座:手間に見合わないため、そのままにした
- それ以上の残高がある口座:窓口に相談し、解除または引き出しの対応をしてもらった
限られた時間のなかでは、すべてを完璧に処理することはできません。どこに労力を割くかを決める必要がありました。
窓口手続きは「役所との往復」がセットになる
窓口での手続きで想定以上に大変だったのが、必要書類の準備です。
本人確認などのために住民票が必要になり、役所と銀行を行き来しなければなりませんでした。平日の日中しか開いていない窓口が2か所ある、ということです。
働きながらこれをこなすため、私は有給休暇を取り、その日のうちに役所と銀行の手続きをまとめて片づけるようにしていました。何度も休みを取れる状況ではなかったからです。
必要書類は金融機関や手続きの内容によって変わります。足を運ぶ前に電話で確認しておくと、往復の回数を減らせます。
親が元気なうちに確認しておきたいこと
ここまでの経験から、私が「先に確認しておけばよかった」と思うことをまとめます。
- 取引のある金融機関と口座の数(使っていない口座が残っていないか)
- 暗証番号を本人が把握しているか(家族が総当たりで探す事態を避ける)
- 年金の受取口座や、公共料金・施設費の引き落とし口座
- 保険や証券などの契約があるか
- お金まわりで困っていることや、抱えている問題がないか
最後の項目は、聞きにくいことかもしれません。それでも、認知症が進んで本人に確認できなくなってからでは、家族はゼロから調べることになります。
備える手段はいくつかある(混同しないための整理)
認知症に備える手段として、いくつかの仕組みがあります。名前が似ていて混同しやすいので、違いを整理しておきます。なお、私自身はこれらの制度を利用していません。ここでは公的情報に基づく一般的な説明にとどめます。
| 仕組み | いつ使えるか | ざっくりした内容 |
| 家族信託 | 本人の判断能力があるうち | 信頼できる家族に財産の管理を託しておく契約 |
| 任意後見 | 本人の判断能力があるうち | 将来に備えて後見人をあらかじめ決めておく契約 |
| 成年後見(法定) | 判断能力が低下した後 | 家庭裁判所に申し立てて後見人を選任してもらう制度 |
家族だけで判断しないために
家族信託は、すべての家庭に必要な制度ではありません。本人の判断能力があるうちにしか契約できないため、必要性や費用を含めて専門家へ早めに相談し、成年後見制度などほかの選択肢とも比較してください。
重要なのは、家族信託や任意後見は「本人の判断能力があるうち」にしか使えないという点です。認知症が進んでからでは選べません。判断能力が低下した後に取れる法的な手段は、家庭裁判所への申し立てによる成年後見制度が中心になります。(2026年9月27日時点で確認)
どの仕組みが適しているかは、家族構成、財産の内容、本人の状態によって大きく変わります。判断に迷う場合は、司法書士や弁護士などの専門家、または自治体の相談窓口へご相談ください。この記事は制度の利用を勧めるものではなく、選択肢の存在をお伝えするものです。
まとめ|聞けるうちに聞いておく
介護が始まると、時間も気力も一気に削られます。そのうえで、口座の数を調べ、暗証番号を探し、役所と銀行を往復することになります。
親が元気なうちに、口座のことやお金まわりで困っていることを聞いておく。それだけで、あとの負担はかなり変わります。
介護の入り口で困っている方は、地域包括支援センターに相談した実体験をご覧ください。施設探しの流れは、認知症の両親の特養を3か月で探した体験にまとめています。
参考にした情報
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」(2021年2月)
- 厚生労働省 認知症施策関連資料
- 法務省・裁判所による成年後見制度の案内
確認日:2026年9月27日。制度や金融機関の運用は変更される場合があります。最新の情報は各公式サイトおよび取引先の金融機関でご確認ください。

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